レイチェル、時を忘れた入り江・鵜原理想郷へ【前編】

レイチェル、時を忘れた入り江・鵜原理想郷へ【前編】

若手の表現者が地球の美しさに出会う旅を通して、自身と地球の未来を考える連載「私の地球漂流記」。
第2回は、千葉県勝浦市へ。昨年、chelmicoとしての活動を休止し、ソロアーティストとして新たな一歩を踏み出したレイチェルさんとともに、不思議な自然造形の残る「鵜原理想郷」を巡りました。


「わからないまま進む」ソロ活動1年目

ユニットとしての活動を休止し、ohayoumadayarou のソロアーティスト名義でこれまでとは異なる創作と向き合っているレイチェルさん。


今の自分を一言で表すなら?
そんな問いに返ってきたのは、「彷徨い中」という言葉でした。

「正直、去年は仕事もプライベートも目まぐるしい変化が多くて、しんどい時期でもありました。身動きが取れない、と感じてしまうときすらあって。ソロ活動も始めてまだ1年くらいなので、今はやりたいことを感覚的にやっているけれど、自分ひとりの活動として何をやりたいのか固めきれていない気がしています」

これまで長くチームで活動してきたからこそ、全てをひとりで決めなくてはいけないことの難しさも感じているそうです。

「ひとりで全部決められるって怖いなと思うこともあって。ソロとしては事務所に所属していないので、『予算がある』状態ではなく『残高の中でなにが作れるか』という世界。つまり個人事業主ですね。いいものが作れるかどうかも稼ぎと貯金次第だったりする。全て自分にかかっているというプレッシャーにようやく慣れ始めたところです」

一方で、ひとりになったからこその発見もあるといいます。

「自分の采配で受けられる仕事も増えたし、共感できることに自分の判断で飛び込めるようになった。そういう意味では、今まで知らなかった景色も見えてきています」

不安もあるけれど、その先に何があるかわからないからこそ、進んでみる。「彷徨い中」という言葉には、迷いだけではなく、新しい場所へ向かう途中にいるような感覚も含まれているようでした。

少し怖くて、少しわくわくする場所

鵜原理想郷は、勝浦のリアス式海岸に沿って続く景勝地。トンネルを抜けると、海岸性の樹々が生い茂る丘へと続く道が現れ、その先には力強い波の風景が広がります。

到着して最初に感じた印象を聞くと、レイチェルさんは意外な言葉を返してくれました。

「ちょっと怖いって思ったかも。もちろんわくわくもするんですけど、知らない場所って緊張するじゃないですか。畏怖のようなものを感じました」

歩きながら特に印象に残った場所として挙げてくれたのは、海辺にある四角いいけすの跡でした。

「自然の中なんだけど、人間が作ったものでもあって。ああいう景色ってあんまり見たことがなくて面白かったです。道中でも切れかけた命綱や横倒しになった石碑が気になったり、自然の中に人が生きてきた痕跡を感じるとなぜだかドキドキするんです」

海辺に立つと、砕ける波の音が絶え間なく聞こえてきます。

「強い波が来たり、そうでもなかったり。そういうコントロールできない動きに、自然を感じます」
「鳥の声とか、木が揺れる音とか……普段都会で人工的な音を聞きすぎて、自然の音が逆に不自然に聞こえてしまう感覚でした。都会にも公園はあるけど、人がほとんどいない場所で聞く音って全然違います」

音も情報も多く、次々とやるべきことがやってくる日常。

「自然の中でぼーっとできた時間でした。都会では、忙しすぎて逆に思考停止しているときもある。風や空と接続する時間は大切ですね」

遊び方が決まっていない場所が好きだった

自然に惹かれる理由を尋ねると、幼少期の記憶を話してくれました。

「小学生の頃、栃木で暮らしていた時期があるんです。山とか田んぼとか、そういう場所で遊んでいました。木の枝とか筍とか、その辺にあるものを勝手におもちゃにして」

自然の中で、自分で遊び方をつくっていた当時はいい思い出で、今でもまた戻りたくなるときがあるといいます。

「自分で物語を作る感覚でした。遊び方が決まってないから面白かったんだと思います」

その感覚は、今の創作にもどこか通じているように見えます。

実際、この日も海を眺めながら、前日に観たライブのことを思い出していたそうです。

「大好きなミュージシャン、優河さんの曲に『さざ波よ』っていうフレーズがあるんですけど、こういう景色を見て生まれた曲なのかなと考えていました。自然の近くで暮らして音楽を作ったらどうなるんだろうとか」

もし自然の中で創作する時間を持てるなら。

「やっぱり自然の中にいると気持ちがリセットされて、曲を書きたくなるんです。1か月くらいこもって曲作りとかやってみたいですね。どんなものができるのか自分自身でも想像がつかないので、おもしろそうです」

わからないからこそ、気になる。ちょっと怖いからこそ、ワクワクする。ソロアーティストとして歩き始めたレイチェルさんは、行き先を決めすぎることなく、まだ知らない場所へ漂流している最中なのかもしれません。


▶︎後編に続く


Rachel(レイチェル)


ラップユニット“chelmico”、ソロ名義の“ohayoumadayarou”、DJ“牡蠣姫”としての音楽活動のほか、ラジオ・Podcastのレギュラーを4本抱え、コラムなどの連載、ナレーション、一児の母、俳優など多種多様の分野で活躍しており、忙しい。先日ついに運転免許も取得し、今後更なる飛躍が期待される。

STYLING

shirt: kudos

tank top: kotohayokozawa(ON TOKYO SHOWROOM)

hooded scarf: kotohayokozawa(ON TOKYO SHOWROOM)

pants: kotohayokozawa(ON TOKYO SHOWROOM)

necklace: 手仕事shiori

shoes: VIVOBAREFOOT