レイチェル、時を忘れた入り江・鵜原理想郷へ【後編】

レイチェル、時を忘れた入り江・鵜原理想郷へ【後編】

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若手の表現者が地球の美しさに出会う旅を通して、自身と地球の未来を考える連載「私の地球漂流記」。

千葉県勝浦市・鵜原理想郷での時間を経て、ソロアーティストとして歩き始めたレイチェルさんは何を感じ、どのような表現と向き合っているのか。後編では、車内での対話をもとに、音楽を作り続ける理由や、これからの未来へのまなざしを辿ります。


自分に届く歌は、誰かにも届く

音楽を作りたいと思うのは、どういう時ですか? そう尋ねると、レイチェルさんからは迷いなく「毎日」という答えが返ってきました。

「作りたくないっていう時がないんです。小さい頃から『歌いたい』というピュアな気持ちはずっと変わっていなくて。今の曲作りも、自分が歌うためのものという感覚かもしれません」

日々の中で見つけた違和感や、ふと浮かんだ言葉。レイチェルさんの曲作りは、自身の生活の中にある小さな発見から始まることが多いといいます。

「生活していて気づいたこととか、見たものが結構そのまま出ます。まずは自分に届けばいいと思って作っていて。結果的に、それが“自分みたいな人”にも届くんじゃないかなって」

ソロ名義で発表したEPでは、これまで表現してこなかった側面を見せたレイチェルさん。静かな浮遊感や、心の奥に沈んでいる記憶をすくい上げるような楽曲は、chelmicoで見せていた明るく軽快なイメージとは異なるものでした。

「chelmicoだったらできなかったことだから、やれていなかったことを全部詰め込もうと思って。ぜいぜいしながら制作しました(笑)。暗い部分も明るい部分も、どっちも自分の中にあるんです。次はもう少しポップなものも作りたいなと思っています」

“見せたい自分像” がないからこそ

「一貫した世界観があったり、一目で伝わるイメージを持っているアーティストさんって素敵だと思います。でも私はそれがないから、ゆっくり探している途中です」

自分自身の見せ方を決めること。情報が溢れる今の時代では、それも表現者に求められる大切な要素になっています。

「今って、ぱっと見て自分のためのものじゃないなと思った瞬間、扉を閉めるスピードがすごく速いと思うんです。こういう見方ですよ、こうやって楽しむんですよ、というガイドをお客さんに対して提示するのは重要だと思いつつ、注意を引くものばかりが生産されて消費されることに疑問もあります」

音楽だけではなく、そこに辿り着いてもらうまでのコミュニケーションも、アーティスト自身が考える時代。

「ミュージシャンが音楽だけを作っていればいい時代ではなくなってきていると思います。例えば、宣伝のための動画を作ったり、SNSで発信したり。そういう活動が必要だとも思いますが、私自身はあまり得意な方ではなくて」

ただ、その苦手意識の奥には、表面的な見せ方だけではなく、ちゃんと作品そのものと出会ってほしいという思いもあります。

「自分で見つけたって感覚が大事なんですよね。たまたま見つけて、このバンドやばい!って感動して、ライブに行って。そういう流れ込みで好きになったものって、自分の感受性でその良さを語れるし、ずっと大切に聴き続けますよね」

自分自身をひとつのイメージに決めきれないことは、弱点のようでありながらレイチェルさんらしさでもあるのかもしれません。

「私は“自分はこうなんです”って決められないけれど、だからこそファンの人とも近い距離感でいられるのかもしれない。友達のところに遊びに来るみたいな感じでライブに来てくれる人も多いし、自分自身を見てくれている感覚があります」


誰かの一時代になる音楽を

「今流行っている音楽って、中毒性が高いものが多いじゃないですか。もちろん私もそういう曲は好きだし聴くけれど、ほとんどが持続可能ではないと捉えていて」

流行や消費のスピードが早い時代。だからこそ、レイチェルさんが目指すのは一瞬で通り過ぎていくものではなく、時間が経っても誰かの中に残り続ける音楽だといいます。

「誰かの一時代を築きたい、と思いながら音楽制作をしています。思春期に聴いていた曲って、思い出補正も込みでずっと大好きだし、でも今聴いてもいいなって思うじゃないですか。自分が作るものも、何度も『あの曲良かったな』って思い出してもらえるものにしたいんです」

どんなタイミングで、誰の人生に届くのかはわからない。それでも、自分がかつて音楽と出会ったように、どこかの誰かに届けたい。

「メッセージボトルを海に送り出すような気持ちで音楽を作っています。『どこに届くかわからないけど、届け!』って念を込めるような感じです」

その思いは、未来を見る視点にも繋がっています。

「子どもが生まれてから、この子が大人になる時にこういう歌が残っていたらいいな、という感覚が強くなりました。暗いだけでもなく、ただ明るいだけでもなく、必要だったなって思える曲があったらいいなって」

レイチェルさんは「鵜原理想郷」という名前について、こんなことを話していました。

「今って、何かに対してロマンを持ったり、こうありたいっていう理想を描くこと自体が少なくなっている気がするんです。諦める方が簡単だから、そういう感覚でい続けることって今の時代すごくタフだなって」

未来に対して、簡単に希望を語ることはできない。それでも、まだ知らない誰かに向けて音楽を作ること。新しい関係性から生まれるものを信じること。次の世代に残るものを考えること。

もしかすると理想郷とは、どこか遠くにある場所ではなく、諦めずに何かを作り続ける人たちの中にあるのかもしれません。

レイチェルの地球漂流記、完結です。

Rachel(レイチェル)


ラップユニット“chelmico”、ソロ名義の“ohayoumadayarou”、DJ“牡蠣姫”としての音楽活動のほか、ラジオ・Podcastのレギュラーを4本抱え、コラムなどの連載、ナレーション、一児の母、俳優など多種多様の分野で活躍しており、忙しい。先日ついに運転免許も取得し、今後更なる飛躍が期待される。

STYLING

shirt: kudos

tank top: kotohayokozawa(ON TOKYO SHOWROOM)

hooded scarf: kotohayokozawa(ON TOKYO SHOWROOM)

pants: kotohayokozawa(ON TOKYO SHOWROOM)

necklace: 手仕事shiori

shoes: VIVOBAREFOOT