「朝ごはんは、和食派? 洋食派?」。何げない二択から、いつもとは少し違うゲストの顔が見えてくる、ポッドキャスト番組『offの日、どっちっち?』。箭内夢菜さんとデカボ博士の関根澄人さんが、ゲストの休日を紐解きながら、ときどき「デカボ(脱炭素)」目線の褒めが入ります。
2023年7月のスタートから約3年。企画及び制作を手がけているのは、J-WAVE MUSICで番組制作に携わる蛇草有里子(はぐさ・ゆりこ)さんです。番組が生まれるまでをたどると、「伝えたいこと」を「聴きたいもの」にする、つくり手の工夫が見えてきました。
「どっちっち」って、どうやって思いついたんですか?
蛇草さんは、これまで調理工程の音を主役にしたラジオ番組『OTOMESHI』や、『GOLD RUSH』、『TIME AND TIDE』など、現在は『-JK RADIO-TOKYO UNITED』、『SUNNY VIBES』といった番組を手がけているプロデューサー。
3年前、そんな彼女のもとに「デカボ(脱炭素)」を題材にPodcastをつくりたいという話が舞い込みます。お題は、「生活者や若い世代にも楽しんでもらえる番組」。
けれど、環境の話と聞くと、なんだか“意識高い”印象も。楽しく聴ける番組にするのは、なかなか難しかったのでは?
「生活者の方々の興味を惹きつけるものと、デカボというテーマをどう掛け合わせるかは、かなり考えました。私自身、動画コンテンツでかばんの中身を紹介する『What’s in my bag?』をよく見ていて、ゲストの方のオフの姿が垣間見えるのはいいな、と。音声コンテンツでも伝わり易いよう、二択で『どっち派?』と聞いて、その人の日常や選び方を深掘りしていく企画にしました」
こうして生まれた『offの日、どっちっち?』。タイトルの「off」には、ゲストのオフの姿をのぞくことと、「カーボンオフ」が掛かっているそう。
つい言いたくなってしまう「どっちっち」というネーミングにも、逸話があります。
「タイトルの口なじみのよさって、すごく大切だと思っていて。六本木ヒルズのお蕎麦屋さんでランチを食べて、エスカレーターに乗っているときに、『どっちっちだ!』って思いつきました」
デスクに戻って同僚に提案すると、少しざわついたそう。
「一応、大人なので(笑)、ほかの候補も用意しましたが、私の中では『これだ!』と思っていました。ナビゲーターの関根さんが推してくれて、このタイトルになって嬉しかったです」
自分「も」面白い。その先の声まで想像する
蛇草さんの企画の種は、日常にある小さなひらめきや違和感。日常風景や、テレビや雑誌、何げない風景を見ながら、「なんだろう」「なぜ面白いんだろう」と考えているそうです。その関心は、いつからあったのでしょう。
ラジオの仕事を具体的に思い描いたのは、高校時代、恵比寿ガーデンプレイスでたまたま(J-WAVEの『TOKIO HOT 100』の)公開生放送を見たとき。ただ、メディアへの興味をたどると、それより前の記憶がありました。
子どものころ、テレビのニュース番組で戦争をテーマにした特番を見ていたときのこと。その伝え方に、引っかかるものがあったそうです。
「生意気にも『企画はいいのに、もう少し違う伝え方ができたのでは?』と感じて、父に話したんです。そうしたら『そう思うなら、テレビ局にメールしてみたら?』って。制作の人も想いがあってつくっているのだから、意見が届くのはうれしいことだよ、と言われたんです」
そして、本当にメールを送ったそう。何を伝えるかだけでなく、どう届けるか。子どものころから気になっていたことが、いまは日々の仕事になっています。
そんな蛇草さんに、番組にならって二択の質問を投げかけてみました。
── 企画をするときは、自分が面白いと思うこと?人が面白いと思うこと?
「自分『も』、ですね。番組ごとにカラーやリスナーさんの年齢層は違うので、もちろん、その方々の関心を想像しながらチューニングしています。でも、最終的には自分が面白いと思う感覚を大切にしています。自分が面白いと思っていることって、意外とほかの人もそう感じているんですよね」
── ひらめきから企画する派?練りながら企画する派?
「ひらめきです。そこから先は、『もう少しこうしたほうが面白く聴こえるかな』『この人だったらこういう言い回しをされるかな』などと頭の中で何度もシミュレーションして詰めていきます」
── ゲストから引き出したいのは意外な一面?その人らしさ?
「悩みますね。でも『どっちっち』では、その人らしさかもしれません。仕事ではいろいろな要素を考慮して選ばないといけないけれど、オフの日は比較的、自分の好き嫌いで選べる。奇をてらった話よりも、その人らしい選び方が見えるとうれしいですね」
音声メディアから、日常に小さなポジティブを
では、蛇草さん自身は日常でなにを選びますか? 番組でもおなじみの質問で「新品派? 古着派?」と聞いてみると、この日着ていた服にもちょっとした物語が。
「新品のほうが多いですが、今日のワンピースは母が妊娠中に着ていた40年ぐらい前のもの。以前ゲストの市川紗椰さんが話してくれた『セルフヴィンテージ』という言葉が気に入っているんです。ものを10年、20年と大切に使っていく、そんな付き合い方は素敵ですよね」
もともと、気に入ったものを長く使う方だった蛇草さんですが、番組をつくる中で、日常に「デカボ」という視点が加わってきたそうです。
「使わなくなったものをセカンドハンドに出したり。帰り道にスーパーでお刺し身が安くなっていると、『めっちゃデカボじゃん』って思ったり。何かを選ぶときに、デカボが判断基準の一つになりました。エンタメ要素が加わった感覚です」
いつもの選択が、ちょっと楽しくなる。そんな変化は、蛇草さんの考える「いい企画」にも重なります。
「行動までつながると最高ですけど、心や気持ちにちょっとでもポジティブな作用があるのが“いい企画”なのかなと思います」
2012年のインタビューでも、「リスナーの心が1グラムでも軽くなるような番組をつくりたい」と話していました。その言葉が生まれた背景を尋ねると、自分がリスナーだった頃の話に。
「どんよりしているときにラジオを聴いて、気が楽になったり、ふっと力が抜けたりした瞬間が、確かにあったんです。自分もそういうものを届けられたらいいなって」
音だけだからこそ想像がふくらみ、話す人と聴く人の距離も近い。飾らない言葉で、リラックスして話せることも、蛇草さんが感じる音声メディアの魅力です。一人で聴いていても、同じ時間を共有している人がいる感じでしょうか。
そんな声の力を信じて、蛇草さんは今日も番組をつくっています。誰かの気持ちが少し軽くなって、次の選択がちょっと変わる。その小さなポジティブは、人から環境へも広がっていくのかもしれません。
蛇草有里子(はぐさ・ゆりこ)
東京都出身。大学卒業後、J-WAVE MUSICに入社。以降、番組制作を担当。
