Vol.3 『踊る大捜査線』編

Vol.3 『踊る大捜査線』編

「デカボスコア」を算出・提供するEarth hacksのメンバーが、名作映画をデカボ(脱炭素)の視点で議論していく本連載「デカボ映画格付け会議」。第3回はお台場・湾岸署を舞台にした刑事ドラマの名作『踊る大捜査線』シリーズです。


30年着続けられるあの「青島コート」、刑事モノの映画作品でよく見られる犯人を囲む何十台ものパトカー、そして「レインボーブリッジ封鎖」…などなど、この踊る大捜査線をデカボの視点で見つめ直すと何が見えてくるのでしょうか?


※本企画はフィクションをもとにした仮想的な視点による評価であり、実際のデカボスコアとは異なります。


青島コート:30年着続けられているデカボなコート

──踊る大捜査線といえば、シリーズを通して主人公・青島が着ているあの緑色のコートが真っ先に思い浮かびます。刑事になる前に買ったという設定があり、映画の公開年月と重ねると、30年近く同じコートを大事に着続けていることになります。


既にデカボな予感がしますね(笑)


──「長く使うことはデカボ」というのはマトリックスのホバークラフトでも出てきた話ですね。青島の着方はデカボでということは間違いないと思いますが、コートの生産においては製造工程のどこでCO2排出が大きくなるんですか?


まず挙げられるのが「染色」です。染料を使い、染めて乾かす、その乾燥にもエネルギーがかかるので、CO2排出量が大きくなります。もう一つが糸そのもの。ポリエステルやアクリルといった化学繊維は、それぞれ製造時の排出があります。


──自然素材よりも、やはり化学繊維の方が排出量は大きいのでしょうか?


化学繊維の方が大きい傾向はあります。しかし、自然素材ならば排出量が小さいかというと、意外とそうでもないんです。


──青島のコートは、おそらくコットン製ですね。自然由来のコットンは環境にやさしそうな印象がありますが…


コットンは栽培の段階で肥料を使います。とくに窒素を含む肥料を使用すると、温室効果ガスの一種である一酸化二窒素が発生します。加えて、脱色や染色の工程もありますから、トータルで見ると必ずしも小さいとは言えません。これらを評価するには、その生産背景までをしっかり知る必要がありますね。


──では、仮に青島のコートが「オーガニックコットン」だとするといかがでしょう?


仮にオーガニックコットンだったとしても同様ですね。基本的に作物のCO2排出は「面積あたり」「重量あたり」の単位で考えます。


たとえば同面積の農場で、コットンとオーガニックコットンの収穫を比較するとしましょう。窒素肥料を使えば収穫できるコットンの量よりもオーガニック栽培をしたことにより収量が減ってしまうとなると、同面積あたりの排出量はかえって大きくなってしまう可能性があります。


その他の項目を考慮に入れない「CO2排出量」の観点で考えると、オーガニックコットンの方が環境負荷が高くなる可能性はないとはいえません。


──栽培の効率性も関わってくるのですね。


栽培や製造に使われる電力がどこ由来のものかという点も忘れてはなりません。コットンの場合、栽培では灌漑用のポンプ、製造では紡績や織布、染色などで電力を使います。同じ1キロワット時の電力でも、再生可能エネルギーなど低炭素な電源の割合が高い地域と、石炭などの火力発電に頼る地域とでは、CO2排出量が変わります。生産地の電力事情まで見ないと本当のところは評価できないんです。


──シリーズ過去作品では青島は犯人に腹部を刺されコートに穴が空き、血まみれになるというシーンがありました。しかし、後の作品では補修とクリーニングを行い、同じコートを着続けています。クリーニングはどうでしょう?


まず、買い替えずに補修して着続けること自体が、デカボにつながります。先ほどお話ししたように、新品に買い替える場合はコットンの栽培から紡績、織布、染色、縫製、輸送まで、もう一着のコートをつくるための工程が新たに必要になります。一方、一定の材料やエネルギーは必要ですが、補修して使い続ければ新品を一着つくる場合と比較すれば、追加で発生するCO2排出量はかなり小さく抑えられると考えられます。


もちろん、クリーニングもCO2排出がゼロというわけではありません。クリーニングの仕方や洗剤の種類によりますが、いずれにせよ洗って乾かす工程でエネルギーは使うので相応にCO2は排出されます。とはいえ、補修とクリーニングをしながら着続けているのであればトータルの排出量は穴が空くたびに新品を買い替える場合と比べればずっと小さいはずです。30年同じコートを着続けるというのは、デカボとしてはかなり評価が高いですね。


DECARBO Judge


青島のコート:素材や生産背景で評価は変わるものの、30年間一着を大切に着続ける姿勢はきわめてデカボ。

パトカーの一斉包囲:台数・車種・運転を見直そう!

──犯人逮捕の瞬間に何十台ものパトカーが一斉に犯人を囲むシーンは刑事ドラマの定番ですよね。確実に逮捕するためという合理性はあるにせよ、さすがに多すぎやしないかと思うんです。警察の事情はいったん脇に置くとして、デカボの視点ではどう考えられますか?


デカボの観点では、大きく3つの改善点があると思います。1つ目は、シンプルに台数を減らすこと。2つ目は、車種を変えること。そして3つ目が、運転の仕方を変えることです。


──台数を減らす、は分かりやすいですね。2つ目に挙がった「車種を変える」とは?


ガソリン車・ハイブリッド車・EVで当然排出量が違いますが、ここは慎重に議論しなければなりません。EVの話になると、どうしても「ガソリンか電気か」というエネルギー源だけに注目が集まりがちですが、製造の段階も評価しなければなりません。現状、EVはガソリン車よりも製造時の排出量が大きいケースもあるので、「車を作るだけ」ならガソリン車の方がデカボ、ということも起こりえます。


ただ、使用の段階では電力の方がCO2排出量は小さい傾向にあるので、走れば走るほど、その差が縮まっていき、いずれは逆転します。さらにEVなら、使う電力が再エネかどうか、バッテリーやパーツの交換・修理でどれだけ追加の排出が出るか、といった点も考慮する必要があります。


つまり、「電気だから環境にやさしい」と単純に言い切れる状態ではないんです。


──だとすると、逮捕の車種を選ぶなら、製造から使用・廃棄まで含めてスコアを比較検討し、いちばん良いものを警察署に導入することが必須ですね。


その通りです。


──3つ目の「運転の仕方」はいかがでしょう?


刑事ドラマだと急加速・急ブレーキを繰り返す運転になりがちですが、それは燃料消費に直結します。逆に、一定の速度を保って急な加減速を減らす、いわゆる「エコ運転」を心がけると、エネルギー効率がぐっと良くなる。


──犯人を取り逃がさない範囲で、なるべく急発進・急停車をしない…刑事ドラマとしては見応えがなくなりそうですが、確かにデカボな犯人逮捕は実現できそうです。刑事ドラマの張り込みのシーンでは、よくアイドリングしたまま待機していますよね。あれもあまりデカボではない?


アイドリング中もエネルギーを使っているので、しないに越したことはありません。「しばらくここで止まりそうだ」というときは、一度エンジンを切るのがベターです。とはいえもともと排出量が桁外れに大きいわけではないので、デカボに張り込むならば取り入れてもらえると良いかもしれません。


──ちなみに、カーチェイスは…


デカボではないですね(笑)。映画的な見せ場としてカーチェイスでは車が爆発したり故障したりして廃棄されます。ただ、あえてデカボの視点で考えるなら、「廃棄される車やパーツをどれだけ減らせるか」という見方はできます。例えば、廃棄される車両だけに着目すれば、1分のチェイスで2台を廃棄するよりも、10分チェイスして1台の廃棄で済む方が、新たに車をつくることに伴うCO2排出を抑えられるので、「デカボなカーチェイス」と考えることはできます。もちろん、カーチェイスはしないのが一番ですが。


DECARBO Judge


台数・車種・運転の3点に改善余地あり。EVは廃棄まで含めた比較が要。カーチェイスを行う際は廃棄台数を考慮する必要あり。

レインボーブリッジ封鎖:事前に通達せよ

──シリーズ最大のヒット作『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』についても聞きたいことがあります。劇中では、犯人逮捕のために強行手段としてレインボーブリッジの封鎖を行います。これはデカボの観点からはいかがでしょう?


レインボーブリッジを通る予定だった車は迂回しなければならず、走行距離が伸びればCO2排出量は増えますね。また、突発的な封鎖なので、大渋滞も起きる可能性も高いです。そう考えると、お世辞にもデカボとはいえませんね。


──デカボの観点で言えば、レインボーブリッジは封鎖しない方が良かった、と。


おそらく、そう言っても差し支えないですね。迂回による走行距離の増加と、渋滞による排出増を考えると、封鎖はマイナスに働きます。


──では、どうしても封鎖する場合、より排出を抑える手立てはあるんでしょうか?


現実には難しいという前提ですが、「◯月◯日はレインボーブリッジが通行止めになります」と事前にアナウンスしておくことである程度は渋滞を回避できたかもしれません。


──事前に周知してしまっては犯人にも逃げられる可能性はありますが、それは一旦考えずにおきましょう。


事前のアナウンスを受けて、車移動ではなく公共交通機関での移動に変える人もいるかもしれない。であれば、むしろレインボーブリッジ解放時よりもデカボになるかもしれません。同じルートを移動するならば車より電車の方が排出量は小さいですから。


──「封鎖することで移動手段が切り替わり、結果的に排出が減る」ということですね。突発的な封鎖は免れなかったとして、船で車を運ぶ、というのはどうでしょう?


船の動力や積載人数、何をどれだけ運ぶかで変わります。極端な話、「車ごと人を運ぶ」と考えた場合でも、大型の船で一度に大量の人と車を運ぶ場合と、小さな船で少人数ずつ運ぶ場合とでは、1人あたりのCO2排出量は変わってきます。一度にたくさん運べる交通手段の方が、1人あたりの排出では小さくなりやすいです。


──『踊る大捜査線』では「小さな事件が、後に大きな事件へ発展する」という筋書きがよくあります。あの時あの犯人を捕まえておけば…という展開ですね。そもそも小さな事件のうちに逮捕できていれば、レインボーブリッジを封鎖せずに済み、デカボだったのでは?


封鎖しなくて済むのであれば、それはもちろんデカボです。ただ、「捕まえなかったからデカボじゃない」とまでは言い切れませんね。小さな事件を起こした犯人が後に大きな事件を起こすことまでを警察がその時点でわかっているわけではないので。


──確かに。未来がわかっているのであれば、そもそも事件は未然に防げますからね。


そうですね。封鎖するにせよ、しないにせよ、逃げる犯人に対して急遽対応しなければならないことは避けられなかったのではないでしょうか。


──レインボーブリッジの先で交通規制をかけて、通る車をすべて検問するならば確実な逮捕と、低排出を両立できるかもしれませんね。


可能性としてはあると思います。とはいえ、それが映画的に面白いのかどうかはやはり気になるところですね。


DECARBO Judge


レインボーブリッジ封鎖:迂回と渋滞で排出は増加すると考えられる。封鎖するならば事前周知で公共交通へ誘導をすればデカボな「レインボーブリッジ封鎖」実現の可能性あり。